あくせいしょうこうぐん

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悪性症候群

Malignant syndrome

主に抗精神病薬の治療中に出現する,最も重篤で致死率の高い副作用である。1960年にフランスのDelayらにより,Syndrome malin(サンドローム・マラン)として最初にその概念が提唱された。その後,多くの疫学調査や臨床研究が重ねられ,その全体像が明らかにされつつある。発症頻度は報告者によってかなりの幅があるが,抗精神病薬服用患者の約0.2%前後と推定される。

抗精神病薬投与中に,37〜39℃の発熱とともに,著しい筋固縮,振戦などの錐体外路症状,頻脈,発汗,血圧変動などの自律神経症状が比較的急速に出現する。適切な処置を講じないと無動,昏迷,昏睡状態に至り,体温も40℃以上となる。嚥下障害から喀痰の排出ができなくなり,肺炎を起こしやすい。高ミオグロビン血症から腎不全を来したり,播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併することもある。輸液が不十分であると脱水状態から循環虚脱を起こす。致死率はかつては20%以上あったが,診断,治療技術の向上に伴い,低下してきている。

検査所見では,血清CPKの高値と白血球の増多がかなりの高率で認められる。

発症要因として患者の全身状態が重要となる。精神状態の悪化に伴う疲弊や脱水によって,薬物動態が変化することが発症に深く関与する。ドパミン遮断作用の強い抗精神病薬ほど,本症候群を惹起しやすい。急激な増量や種類の変更,筋肉内注射は注意する。近年,抗うつ薬や制吐薬などによる症例も報告されている。

発症機序として,ドパミン・セロトニン不均衡説,ドパミン・ノルアドレナリン不均衡説などが提唱され,ドパミンと拮抗関係にある様々な神経系の均衡が薬剤によって乱されることが原因と考えられている。

【治療】原因と思われる薬剤の投与を直ちに中止し,全身管理を開始する。高熱に対し解熱薬は無効であり,氷やアルコールで全身を冷やす。輸液を行い,脱水・電解質バランスの是正を行う。薬物療法としてはダントリウムとパーロデルが有効である。

本症候群が改善しても基礎疾患の治療のため,抗精神病薬の再投与が必要な場合が多い。この場合は出来るだけ無投薬の期間を置き,抗ドパミン作用の少ない薬剤(メレリル,ロドピンなど)を少量から注意深く投与していく。

【薬剤】ダントリウム:末梢性筋弛緩薬。初回量40mgを静注し,20mgずつ追加。1日総量200mgまで。経口投与が可能になれば,経口薬に切り替える。副作用として,心肺機能低下,筋無力症状,肝機能障害がある。

パーロデル:ドパミン作動薬。経口投与が不可能な場合は,胃チューブを通して投与する。1日7.5mgから開始する。

主要疾患・治療と薬剤ハンドブック(薬事新報社刊)より